かんなび 学びいろいろ、環境人間学部のみちしるべ。

2023.05.03

【解説】子どもを守るための「親権」。親が離婚したら誰のもの?/喜友名菜織(家族法)

 

【共同通信2023年4月18日】法制審、共同親権導入に向け議論 父母合意で、民法見直しも

 

【解説】

「親権」という言葉を知っていますか。子どもは、一人前の社会人になるまでの間、自分を育ててくれる存在を必要とします。そのため、親には、子どもを育成するための権利(身のまわりの世話をする権利、財産を管理する権利、子ども本人に代わり契約を結ぶ権利など)が認められています。これを親権といいます。親権は、親の権利であると同時に、義務でもあります。両親は、常にその子の福祉や幸せを第一に考えて、親権を行使する必要があるのです。

さて、両親が離婚をすると、親権はどうなってしまうのでしょうか。現在の制度では、父母のどちらかを親権者と定める必要があります(離婚届けにその旨を記載する欄があり、未記入の場合、離婚届は受理されません)。これを法律用語で離婚後単独親権といいます。このような制度にしたのは、離婚をすると生活が別々になり、両親が共同で親権を行使することが現実的には困難である、と考えられたためです。

では、たとえば両親の不仲が原因で離婚し、母が親権者(つまり、子どもの養育責任者)になり、子どもを引き取ったとしましょう。こうしたケースでは、父が子どもの養育に関わり、その成長を今後も見守っていくことは難しいといえます。このように、どちらか一方にしか親権を認めない現行制度のもとでは、父母の間に葛藤や対立が生じてしまい、子の奪い合いという深刻な紛争にまで発展することが少なくありません。こうした背景から、離婚後も共同親権とすることについて議論されてきました。

離婚後共同親権の導入に賛成の立場の人々は、次のような点を重視しています。子どもは両親の愛情を受けて育つ必要がある。離婚後の子どもの喪失感・孤立感を和らげ、アイデンティティの形成にも寄与する。現行制度のもとでは、子どもとの面会を求めても、偽装DVなどによって面会が拒否されることがある。現行制度は子どもに親を選ばせ片方の親から引き離すものであり、かえって父母の争いを助長する。これに対し、反対の立場の人々は、次の点について危惧しています。子どもにとって重要な問題を迅速に決定できなくなる。両親の対立により子どもが忠誠葛藤に陥り、子どもの心理に悪影響を及ぼす。DVや虐待のケースでは、今以上に深刻なダメージを受けたり、危険にさらされるおそれがある。

そして、今回取りあげる記事によると、「真摯な合意が確認できたときには離婚後共同親権を認める」という提案が出されたとのことです。激しい意見対立があるなかで、その間をとりもつような方向性が示されたといえます。

一方で、こうした制度の運用にあたっては、両親が対等な関係性にあるのかどうか、お互いに納得しているのかどうかを確かめるために、また、子どもの意向や福祉が話し合いの中心に置かれるように、裁判所の関与が不可欠になると考えます(それに関連して、離婚届け1枚で離婚や親権者を定めることが可能な、現在の離婚制度のあり方そのものを見直す必要性も指摘されています)。

離婚後共同親権の是非をめぐっては、離婚後も親権をもてるのかどうかという点だけでなく、親としての責任を分かち合い共同で養育を担っていけるのかという観点からの議論も不可欠と考えます。離婚後も両親が友好的な関係を保ち、子どものことについていつでも相談し合える間柄にあるのなら良いのですが、信頼関係が壊れてしまっている場合や相手からの暴力に不安や恐怖を抱いている場合もあります。離婚の前後におよぶ相談支援体制の整備・充実、DV・ストーカー対策、安全の確保といった諸課題についても、あわせて検討する必要があるといえます。

 

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