かんなび 学びいろいろ、環境人間学部のみちしるべ。

2023.04.20

まだ見ぬ自分を見つけるために大学院へ〜樹木の根の秘密を探る〜(大橋瑞江研究室・博士前期課程2年)

自分の「やりたいこと」を探すために

私が学部生だった時、自分が進みたい進路や自分のやりたいことが見つからず、就職活動にも身が入っていませんでした。そんな折、学部時代の所属ゼミの教員だった池野英利先生と、現在の修士課程における指導教員の大橋瑞江先生に「やりたいことが決まっていないなら、大学院に進学してそれを探しながら、力をつけていけばいい」と仰っていただき、それを機に大学院に進むことを決めました。ただ、池野先生は別の大学に移ってしまうことが決まっていたため、池野先生と合同で研究室を運営しており、卒業研究でも深くサポートしていただいていた大橋先生の研究室に所属することを決めました。

縁の下の力持ち、樹木根

私の研究は、樹木の根の写真を沢山撮影し、その写真を使って樹木の根の構造を3Dモデルとして復元するというものです。樹木の根は、普段は地面に埋まっているため、あまり関心を持たれない方も多いと思います。しかし、樹木の根は水と栄養を吸収して運ぶことで樹木を生長させる、巨大な樹木の地上部分を支えるなど重要な機能を持ちます。また、土の中に巨大な根を這わせることで、豪雨が原因で発生する土砂災害を起きにくくするといった、人間社会に直接関わってくるような役割もあります。

このような樹木の機能を調べるために、根の直径や長さなどの根の形態を計測する必要があります。しかし、根を研究するためには掘り出す必要があり、時間も費用も掛かってしまうため地上部分と比較すると研究が遅れています。

重機を使って根の周りの土を掻き出している様子

また、巨大な根をそのまま持ち帰り保存することは現実的ではありません。貴重なサンプルなので、形態データを取得した後は別の研究に用いるために根を小分けにし、必要な部分だけを取り出します。その結果、根の最初の形態は失われ、もう一度計測を行うことができなくなります。

そこで、写真測量と呼ばれる技術によって根の構造を復元し、いわゆる三次元モデルを作ることで、何度でも形態の計測を行えるようにする方法を提案しました。この手法によって、実際に根の三次元モデルを作成でき、形態の計測も高精度で行うことができるようになりました。

実際に掘り上げた樹木根(上)と、画像から作った三次元モデル(下)

一方、この三次元モデルを作る方法において、一部の処理に膨大な時間が掛かることなど、いくつか課題があることも明らかになりました。これを解決するために、機械学習と呼ばれるAI技術を用いることで、処理時間が大幅に短縮することができました。

研究を通して得られたものは様々ですが、最も強く感じたことは、何事もチャレンジ精神が大事ということです。山でのフィールドワーク、論文執筆、学会発表、プログラミングなど、私にとっては全てが初めてのことでした。最初は抵抗を感じていたものもありましたが、やったことが実績となり、経験となって今の自分を形作っています。今では「大変だったこともあったけれど、しっかりやってきてよかった」と思うようになりました。

国際誌への論文執筆

一番大変だったのは、国際誌への論文の投稿でした。ふつう研究の中で一つの成果が実を結ぶまでに掛かる時間は非常に膨大です。私の場合、研究の成果を投稿論文として国際誌に提出したのが最も大きな成果でしたが、論文の執筆を決めてから3年近く時間が掛かりました。論文の執筆には、データ集め、論文の方向性の決定、執筆作業、英語への翻訳、そして投稿という、何層ものハードルがあります。さらに、その後論文を審査する海外の研究者から意見をいただき、訂正を繰り返し、その研究者の承認を得ることでようやく論文が受理されます。一つ一つ時間をかけて粘り強くこなすことで、やっと大きな成果を出すチャンスが生まれる──考えてみれば当たり前のことなのですが、実際に経験することで、より強くそのことを実感しました。この経験は、これから社会人として生きていくうえで非常に大切なものであると思っています。

アメリカの学会で発表した時の写真

また、大学院で研究を行うにあたり、プログラミングの知識が必要であったため、その勉強をしました。プログラミングの習得は思いのほか楽しかったため、結果としてそれが将来の進路選択における決定打になりました。

研究を通じて決まった「やりたいこと」、そしてその先へ

私は既にIT系の会社にSEとして就職が決まっています。先ほども述べたように、大学院で学んだ内容が、そのまま就職先に結び付いた形になります。私の場合、プログラミングは大学院から学び始めたため、情報系の学部に進んだ方々からすればプログラミングスキルやそれに付随する周辺知識はまだまだひよっこに過ぎません。ですが、大学院で培った様々な力によって、この分野における先輩方に追いつき追い越せるように頑張っていきたいと考えています。

 

2023年3月修了

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