かんなび 学びいろいろ、環境人間学部のみちしるべ。

2023.04.06

植物に含まれるファイトケミカルの機能性を研究。自ら舵を取ることでわかってきた研究の面白さ。(村上明研究室 博士前期課程2年)

議論すること、考察することが好きだった。

学部は環境人間学部の食環境栄養課程でした。4年生の春~夏頃という卒業研究が始まって間もない時期に、大学院に進学することを決めました。元々、何かについて考察して議論するという作業が好きだったことに加えて、その時、取り組んでいた研究を自分の手で進められるところまで進めてみたいという思いがありました。

学部2年生の時、実験や実習が多くあったのですが、この中で出される課題や実験結果について同級生と議論したり考察したりするのが楽しく、これをきっかけに実験系の研究室への興味が強くなりました。3年に進級するとき、現在、所属する村上研究室に配属が決まり、機能性成分についての研究課題を進めることになりました。実験実習と研究(卒業研究含む)で最も異なる点は、ある課題点や結果について正解があるか、という点だと思います。研究では、まだ正解が決まっていない課題について、先生方のご指導やアドバイスのもとではありますが、自分で文献を調べたりしながら結果等を考察したり、今後の進め方まで考えていきます。自由度が高く性に合っていて、研究にもう少し関わっていきたいと考えるようになりました。

一方で、私が4年に進学したのは2020年。ちょうどパンデミックが発生したときで、卒業研究の開始も遅れてしまい、自分自身で実験を進められる時間が短くなってしまいました。また研究開始当初は特に不明点が多すぎて、自分で考察する以前の所で調べないといけないことが多く、自分の中で目標としていた所までは進められそうにないと感じていました。もう少し自分の手で研究に関わってみたいという思いが強くなり、進学を決めました。

植物に含まれるファイトケミカル。その機能性を研究。

近年では食に対する健康志向の高まりとともに、特定保健用食品などの「機能性を持った食品」が数多く販売されています。これらの食品に用いられている成分や素材として代表的なものには乳酸菌などの微生物や食物繊維、そしてポリフェノールなどに代表されるファイトケミカルが挙げられます。

ファイトケミカルは植物が虫による食害や紫外線などのストレスから身を守るために合成する物質の総称であり、抗酸化機能など様々な機能性を示すことが知られています。その一方で、これらはそもそもヒトにとって栄養素ではなく、摂取しても体内にはほとんど吸収されません。また、一部のファイトケミカルのサプリメントなどを大量摂取したことによる健康被害が疑われる例も報告されています。これらから、ヒトにとってファイトケミカルは薬物と同様に異物であるという考え方もあり、実はどういったメカニズムで健康効果をもたらしているのかはよく分かっていません。このメカニズムについてはこれまでも研究が行われてきていますが、細胞レベルでのメカニズム研究ではこれらに複数回暴露させた(日常生活における継続的な摂取を想定したような)研究はほとんど行なわれていません。

そこで私は細胞にファイトケミカルを複数回暴露させた場合の機能性とそのメカニズムについて研究を行ないました。具体的には、ファイトケミカルの一種であるワサビの辛味成分アリルイソチオシアネートに着目して、これにあらかじめ暴露させた細胞では、その後に細胞毒性を示すような高濃度のアリルイソチオシアネートへの暴露によるストレスや低pHストレスを与えた場合にも耐性を示すという現象を見出しました。

ヒトは野菜などからファイトケミカルを日常的に摂取し続けています。その為、こうした継続摂取による効果に着目した機能性研究は、今後さらに重要となってくる興味深い分野だと感じています。

試薬による色の濃淡を利用して、細胞に対する試験物質の毒性試験(ここでは細胞の生存率を利用)を行なう様子

研究活動を通して得た課題に対する取り組み方

研究では前述のように自由度が高い一方で、正解がないことから、ある実験結果一つに対しても解釈が難しい場合もあり、上手くいったとすぐ実感できることは少ないです。研究活動を通して特にそういったすぐに成果の見えない場面で諦めてしまうのではなく、多方面から自ら取り組んでみることの重要性を学んでこられたと感じています。研究活動の中で、今後の研究の方向性について少し悩んでいた際に、普段調べている分野とは少し違う方面からも調べて、そこから自身の考えを踏まえてディスカッションすることで研究の舵取りに大きく関与できた機会がありました。普段は自分から研究計画や方針を考えてはいても、やはり知識のある先生方から頂いた意見がベースとなります。しかし、このように研究について少し悩んでいた状況下で、自分で興味深いと思え、新奇性のありそうな項目を見つけ、調べて、方針に活かすという、より主体的な研究への関わり方が出来たことをきっかけに、より研究が面白いと感じるようになり、取り組み方もより前向きになったと感じています。

また、大学院では研究室次第ではありますが、学会などでの発表の機会が多くあります。私は発表といった場ではかなり緊張してしまうタイプであったため、研究室配属前の自分であれば発表してみようとはあまり思っていなかったと思います。ただ研究活動の中ではその機会が多くあること、また日々の研究室内でのミニ発表のような機会を複数経験することで、とりあえずやってみようかと考えるようになり、積極的に参加できるようになりました。

東京国際フォーラムで開催された国際栄養学会で発表

基礎研究から食品ビジネスへ

これまでの学生生活では基礎研究に位置付けられる分野でアカデミックな研究に携わってきましたが、社会に出てからは逆に多様なビジネスに直結するような視点から挑戦してみたいと考え、研究職のみに配属可能性のある企業ではなく、研究開発を含めた企業の事業の幅広い分野に関わることのできる総合職や、ジョブローテーションのある企業を中心に就職活動を行ないました。

結果的に、これまでの研究分野とも少し関連性のある食品分野の企業に内定を頂けました。次年度から食品企業の総合職として勤務する予定です。今後は、今までのアカデミックな分野とは少し異なる分野ではありますが、研究を通して学んだ課題への取り組み方などを活かしながら食品の開発や流通にかかわっていきたいと考えています。

 

(2023年3月卒)

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