かんなび 学びいろいろ、環境人間学部のみちしるべ。

2022.11.25

市民研究所を核とした大学・地域連携-ため池のある暮らしの未来に向けて-(教員:柴崎浩平)

環境人間学部にはエコ・ヒューマン地域連携センターという附置センターがあります。これは教員や学生の地域連携活動の推進を担っており、研究だけでなく、社会貢献にも積極的に取り組んでいます。

今回はこのセンターのコーディネート教員である柴崎浩平 助教(環境デザイン系)にお話を伺いました。兵庫県に多数ある「ため池」について研究しており、その管理のための組織を立ち上げました。どのようなプロセスでここまでたどり着いたのか、どのような活動を行っているのかお聞きしました。

 

地域資源を管理する仕組みづくり、担い手づくりがテーマ

■こんにちは。柴崎先生は環境人間学部にこられてまだ半年ですね。まずは、自己紹介をお願いできますか。

柴崎:はじめまして。2022年4月からEHCのコーディネート教員を務めております,環境デザイン系の柴崎浩平です。大阪生まれで、専門は農業農村経営学,農村計画学。農村,農業,ため池,都市農村交流,移住促進,アクションリサーチ,大学・地域連携などをキーワードとして研究や実践を行ってきました。

■キーワードがたくさんありますが、どのような研究をしているのでしょうか。

柴崎:地域資源を管理・活用していくための仕組みづくりや,その担い手となる人材の確保・育成に向けた研究をおこなっています。具体的には,農村に関心を寄せる若者(地域おこし協力隊や新規就農者,大学生)や,自然資源を管理するコミュニティ(ため池を管理する水利組織)を対象とした研究をおこなっています。

研究のスタイルとしては,地域に直接的なインパクトを与える「実践的な研究スタイル」を大事にしています。現在は,ため池という地域資源に着目して,ため池管理者や農家,町内会,企業の方々とともに「(一社)ため池みらい研究所」 を立ち上げ,地域のみらいを自分達でつくっていくためのプラットフォームを創造しています。研究所というと,アカデミック分野の人が中心になって運営していると想定しがちですが,この研究所は,市民が中心となった「市民研究所」です。

 

ため池という地域資源への興味

■兵庫県にはため池がたくさんありますが、もともとため池に興味があったのでしょうか。

柴崎:そうではないですね(笑)。私が生まれ育った地域は,大阪南部の都市近郊農村で,ため池が多く,幼少期から釣りなどしていたのですが,臭い・汚い・怖い,,,むしろ,良い印象は持っていませんでした。

一言で「ため池」といっても様々なタイプのため池があります

しかし,ため池管理者の方にお話を聞かせていただくなかで,印象も変わりました。人が生きていくために必要不可欠な水という資源をコミュニティが管理してきた(多くは江戸時代〜),その価値や可能性に気づきました。そこに,研究テーマとして面白さを感じるようになりました。

ただし,研究テーマの面白さは感じていたのですが,「(一社)ため池みらい研究所」という法人を立ち上げてまで研究していくとは思っていませんでした。ただ,活動をより発展させていくためには,大学・地域連携の運営に市民が関わる必要性を感じ,立ち上げるに至りました。同法人の立ち上げには,大学,行政,地域住民,企業など実に多様な立場の方々が関わっています。その際,「一緒に立ち上げませんか」と理事の方々を勧誘したのですが,「一緒にやっていこう」と心強い返事がなければ,立ち上げることはなかったかと思います 。

 

(一社)ため池みらい研究所 設立パーティの様子(2022.3.5)

 

 

ため池をめぐる様々な問題に向き合う

■では、ため池の何が問題・課題となっているのでしょうか?

柴崎:ため池は,水利組合などのコミュニティがメインとなって管理しているのですが,コミュニティの脆弱化に伴い,適切に管理していくことが難しくなってきています。その結果,様々な問題が顕在化しています。

ため池管理の様子

1つは,災害。ため池の堤防の漏水・決壊の発生件数が多くなっており,人が亡くなるケースも発生しています。近年では,このような災害がおこらないよう,ため池の管理者は,適正な管理に努める責務があると法律上においても明文化されるようになりました(農業用ため池の管理及び保全に関する法律,2019年7月1日施行)。

ため池の決壊の様子

しかし現場をみてみると,ため池を適正に管理できる人材を確保することが困難になりつつあります。ため池の管理作業は多岐に渡り,複雑な水利慣行を熟知しておく必要のある作業や短期間では身に付けることが難しい作業,重い責任が問われる作業も存在します。例えば,水を無駄遣いせずに集落の水田に水を平等に配るためにどうしたらいいか,,,こういった作業に必要な知識や技術は,農業や管理作業に関わっていくなかで身につけていくものですが,農業の衰退に伴い,必要不可欠な知識や能力の乏しい者が管理責任者にならざるを得ないケースもみられだしています。

その他,ため池が抱える問題・課題は多くあります。詳しくはこちらをご覧ください。

 

ため池みらい研究所の役割

■このような多様な問題の解決にむけて、ため池みらい研究所では具体的にどのようなことをやっているのでしょうか。

柴崎:ため池があることで我々が享受するサービス(ため池サービス)を維持・向上させていくために,地域のみらいを自分達でつくっていくためのプラットフォームを創造し,主体間の連携を促しています。

この「自分達で」というのが,重要な部分だと思っています。ため池サービスの多くは公共的なサービスであり,行政など他の主体との連携が必要不可欠になります。その連携を促すためにも,地域に欲しい機能やサービスはまず自分達で作っていく,というムードを作っていくことが大事だと思っています。

そのために,研究員主導のプロジェクトを,事務局や理事をはじめとするメンバーが支えるといった仕組みを作っています。「研究員」というと,アカデミック分野の人を想像しがちですが,「ため池みらい研究所」の研究員は,広く「市民」を想定しています。現状をより良くしていくプロジェクトを展開していきたい,という思いを抱く人(研究員)を支える,そういったことを促していきたいと考えています。現在,このような仕組みづくり,ならびに後述する具体のプロジェクトの内容について,理事メンバーをはじめ,大学や行政関係者と話し合っている状況にあります。

 

理事や大学・行政関係者との打ち合わせの様子

様々な主体間の連携が課題解決のカギ

■ため池に限らず、多様な主体の連携は様々な領域で必要になってきていますが、具体的にどのような連携を目指されているのでしょうか。

柴崎:創造している連携は大きく3つあります。「適切管理に向けた農家間の連携」「協働管理体制の構築に向けた農家・市民の連携」「エコビジネスの促進に向けた農家・市民・ビジネスセクターの連携」です。

それぞれの内容については,HP等をみてもらえたらと思うのですが,研究のテーマはため池を中心としながらも,農業や食,里山,草刈り,会計,居場所づくり,,,幅広い研究テーマが展開されています。というのも,ため池が抱える課題はため池だけみていては解決しない,という考えがあるからです。ため池とその他の資源とを関連づけて取り組んでいくことが必要だと考えています。

 

柴崎:私の研究としては,これまで紹介してきたプラットフォームの構築もそうですが,具体のプロジェクトでいうと,「ため池管理ルールの修正」があります。ため池の多くは江戸時代に作られたため,その管理ルールは当時から存在しており,今日まで継承されています(もちろん,その時々で細かなルールは変わっていますが)。ただ今日の農村が置かれている状況は大きく変化しているので,現状にそぐわない部分も多くあります。そのため,「令和版」にどのように修正していけるか,ワークショップなどを通して探求しています。

 

連携のために必要なこと

■連携ときくと非常に建設的で前向きですが、実際に進めようとすると、それぞれの立場や考え方の違いが浮き彫りになってしまうこともありますよね。このあたりはどう進めたらよいのでしょうか。

柴崎:そうですね。確かに難しい面はあります。まずは人と人,互いのことを知ることからはじめてはどうでしょうか。例えば,都市部の人が草刈りの有償サービスを提供する仕組みづくり※をおこなっているのですが,取り組みを始めた当初,ため池管理者(70代)からは「草刈りに興味のある若い子なんかおるわけないやん」という声がよく聞かれました。しかし活動を続けていくなかで「草刈りに興味を持つ若い子もおるんやな〜。そういった人がなんで草刈りに興味を持っているのかもなんとなくわかった」という声も聞かれるようになりました。こういった「気づき」が主体間の連携には必要不可欠です。

■なるほど。お互い、何を考えているか、どのような認識をもっているか、どのような願いがあるか、実は分かっていないことが多いですね。そこを共有していくことが大切なのでしょう。

柴崎:ただ、主体間の連携(先述した草刈りの事例では,農家と市民の連携)は,圧倒的に足りていないと感じています。例えば,地域間,組織間,部署間,セクター間,,,などなど。多くの気づきが生まれるようなプラットフォームをこれからも構築していきたいと思っています。

最後に。本研究所では,クローズドな組織ではなく,オープンな組織づくりをおこなっています。そのため,プロジェクトの立ち上げやフィールドの紹介などの研究協力,インターン生の受け入れなどなどなど,様々な関わり方ができる仕組みにしています。少しでも興味を持たれた方は問い合わせいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

■本日はありがとうございました。

 

※播磨畦師というコミュニティづくりをおこなっています。詳しくはこちらをご覧ください。

\ この記事をシェア /

Twitter Facebook