健康・スポーツが研究に結び付くまで(大学院・森寿仁研究室)
私が学問としての「運動」「スポーツ」そして「健康」と出会うまで
皆さんにとって運動とは何でしょうか。皆さんが通勤通学で歩くのも運動ですし、トップアスリートがそれぞれの舞台で躍動するのも運動、高齢者や障がいのある方々がリハビリテーションとして実施するのも運動です。このように考えると、運動としての在り方は実に多岐にわたり、それによってもたらされ得る健康のかたちも様々です。私は現在、運動によって身体にどのような変化が生じるのか、そのメカニズムを探る運動生理学、効果的な運動処方やトレーニングを検討するトレーニング科学を主として専門にしています。
私はコロナ禍真っ只中に環境人間学部に入学しました。入学当初の目標は、普段の学業に加えて、全学の副専攻プログラム「地域創生人材教育プログラム(RREP)」の活動に参加すること、準硬式野球部での運動部活動(スポーツ)に取り組むことがありました。入学後は人間形成系への系選択、現在の指導教員である森寿仁先生(人間形成系)のゼミへの配属に関連して、片っ端から「健康」や「スポーツ」と名の付く授業を履修したことや、それらに関する学習を深めながら実験や測定にも参加していたことを今でも思い出します。
そして森先生の指導の下、3回生の冬季に卒業研究に着手し、実際にヒトを対象とした実験を実施し、研究計画の立案やデータ収集、分析、そして卒業論文の執筆に取り組みました。これらは私の今の活動の原点であり、その一つ一つで得られた知見はもとより、これらに向き合う中で感じた緊張感や達成感などは今でも大切にしています。
その傍らで、RREPの活動に参加することで他者と連携して活動や協議を重ねることの難しさを知り、地域住民の方々との協働を実践しました。また、準硬式野球部での活動においては、自身が試合中に采配を振るい、日々の練習内容や方針を組み立てることで、スポーツに対する主体的な取り組み方とは何かを考える契機となりました。これらに取り組む中で、学べることの幅広さを感じ、そして自身で問いを立てる、すなわち「ゼロからイチを生み出す」ことの奥深さを知りました。
私は、学部の時点では進路選択において就職と進学をフラットに考えていました。ただ、実際に将来どうするかは決めかねていました。前述のように環境人間学部での2回生までの幅広い学習では、自分の中に「これが私の専門です」と胸を張って言えるものが出来あがってきていないという不安がありました。それが、森ゼミでの諸活動を経験することで専門性が確立していきました。さらに、学部4回生の時に学会で発表し、そこで優秀発表賞を受賞したことで、研究やその発表に関して自信が付いたこともきっかけの一つとなり、進学の意思が固まりました。そこからは日々の勉強に加え、英語の勉強や、専門書や論文抄読に取り組むことで、具体的に進学後の取り組みの方向性を定めてゆきました。
筋トレ+有酸素「コンカレントトレーニング」の可能性を探る
現在主に研究しているテーマは、レジスタンストレーニング(筋トレ)と有酸素性トレーニングを同一セッション内で実施する、「コンカレントトレーニング」です。私のこれまでの研究では、コンカレントトレーニングにおいて運動を実施する部位や運動強度の違いが身体に及ぼす影響を検討することを主目的に実施しました。その結果、脂肪燃焼(ダイエット)には、必ずしもしんどい運動をする必要がない可能性や、動脈硬化の予防に有効と考えられる組み合わせについての知見が得られました。今は、これらの知見や内容を基に、アスリートから高齢者まで、幅広い対象に向けて実際の現場に還元できるようなトレーニングプログラムの開発を目標としています。
測定・トレーニングの様子(自身が実験対象になることもあります)
測定フィードバックデータ――実際の私の最大酸素摂取量(有酸素性能力の指標)です!
森先生のご指導の特徴は、学生の「やってみたい」を非常に後押ししてくださる点です。学部時代から先輩方の実験や測定に参加させていただいたり、学会発表に取り組ませていただいたり、多くの経験が得られる場を提供いただいたことには感謝するばかりです。この点は、私の「とりあえずやってみる」基質ととてもマッチしていたのかもしれません。現在も、学部生と大学院生が協働して研究を進めたり、プロジェクトに取り組んだりできる環境が整っており、学生どうし、そして教員との距離が近い環境の中で密にご指導いただいています。また、研究室のサポート体制・設備は環境人間学部でも随一であり、日々の研究活動の大きな支えになっています。
第38回トレーニング科学会での学会発表の様子
私は、環境人間学研究科の博士前期(修士)課程修了後は同研究科の博士後期(博士)課程に進学します。専門分野の研究を発展させつつ、使命感や楽しさを原動力として、環境人間学部らしさを活かした研究にも更に着手・深化させていきたいと考えています。
自分なりのエンジン(原動力)、目指す目的地は
私は大学院進学をきめてから修士1年のときまで、正直多くの不安を抱えていました。それは周囲に分野の近い学生が少なかったこと、当然ながら日本全国のみならず世界の研究者の方々と並んで評価されること、そして自分の能力不足を痛感することが主な要因として存在しました。これらは今でも時折感じることがあります。
こうした時、私は原点に立ち返って自身に問いかけます。『誰が望んだ道か?』と。進学を決意したのは自分であり、研究やその他の活動に取り組むのも自分です。そして今後の道を切り開くのも、やはり自分にほかなりません。私はあらゆる事象と対峙した際には、「なんとかなる」ではなく「なんとかする」という気持ちで向き合うようにしています。何事も、始まりがあればやがて終わりが訪れます。だからこそ、受動的でなく、能動的に動くことは極めて重要であると考えています。偶発的な好機をただ受け身で待っていたり、見えてすらいない安寧に身を委ねたりすることは、自身の成長や望ましい結果を得るうえでこの上なくブレーキとして作用します。
そのために私は、とにかく行動(アクション)を起こすように心掛けています。例えば、先生方に相談してみる、現状を紙に書き出して整理してみる、などです。その積み重ねが、次第に確かな自信へと変わり、次のステップへの原動力となります。また、一見矛盾するようですが、私は自分のことを「運が良い」と思うようにしています。それは決して今後遭遇し得る偶然への期待ではなく、自身の選択によって得られた出会いや環境に対する感謝の現れです。同研究室のメンバーや指導環境に恵まれていることを実感する度に、自身の姿を見直し、その上でこの環境に対してさらにアクセルを踏む意識が芽生えます。
学会発表や論文投稿といったハレの瞬間は、日々の多くを占めるケの日常によって輝きます。自己管理も含めて、些細でも身の回りに気を配った上で多くのことにチャレンジしてみると良いのではないでしょうか。正直、どのような進路に進んでも、そこで高いレベルの成果を出しても、少々の後悔は生じます。そういう点ではベストな選択肢など存在しないのかもしれません。そこでその後悔を軽減させられるのが、準備や経験です。これらの積み重ねは「これだけのことはやった」という自他に対する納得を正当かつ妥当に可能にします。進路を決めかねている皆さんも、不安を感じることはあると思います。それは、自分なりに挑戦しようとしていることの裏付けでもあります。最重要なのは、その不安の有無ではなく不安との向き合い方だと思います。自分なりの最大限のベターを追求してみてください。



