かんなび 学びいろいろ、環境人間学部のみちしるべ。

2022.06.14

目の前の「被害」から目をそらさずに 地域の人たちと一緒に悩み、 妥協点を探る(教員:山端直人、院生:Tさん)

大学院環境人間学研究科は、環境人間学部の教員と、兵庫県立自然・環境科学研究所の自然環境系及び森林動物系の教員によって担われています。

今回の記事は、自然・環境科学研究所設立30周年の事業として制作されたキャンパスガイドの一部を転載したものです。自然・環境科学研究所の山端直人教授と、院生のTさんへのインタビュー記事で、お二人とも日本の農村で問題となっている「鳥獣被害」の解決にむけて研究しています。

**************

野生動物と「共存できる社会を作る」

実務経験を経て、2017年に着任した山端教授。計6名の教員が所属している森林動物系は、多様な専門の研究者が連携しながら、日本の農村が直面する「鳥獣被害」の解決を目指す、日本でも数少ない教育研究機関です。

 

山端直人(以下、山端):「わたしが公務員として農村に関わり始めて驚いたのは、『暮らしの困りごと」の多さでした。その中の代表格が『鳥獣被害』ですね。でもその『解決』は簡単にはいきません。正面からその問題に取り組もうとすると、動物生態学や行動学、そして自分のような農村計画、経営学や政策学…と多くの学問分野が少しずつ知恵を出し合う必要があるんです。森林動物系の合言葉は『野生生物と“共存できる社会を作る”』。これまで日本で鳥獣被害が完全になかった時代なんてないはずです。人間の知恵と工夫を結集して、集落の生活を維持してきた。ここでは、院生ひとりに教員が2~3名体制で指導することもあります。逆にいうと、ひとりの教員だけじゃ太刀打ちできないほど、『鳥獣被害』が多岐にわたる複雑な問題だということですね」

山端直人 教授

 

現場の声に耳を傾け、妥協点を探る

高校生の頃から、漠然と「鳥獣被害」を解決して人の役に立ちたい、と考えていたTさん(23)は福井県出身。関東の大学を卒業後、兵庫県立大学大学院へと進みました。

 

Tさん: 「学部時代からいろいろな研究室に顔を出していました。2年のときには、学部の先生が丹波篠山市の調査に連れてきてくれて、もう、山端先生と出会っているんですよね。学部4年間の間に、北海道大学の演習林(和歌山県)での研究体験に参加したり、学会発表をしたり…いろいろな大学の先生と知り合いになったのですが、鳥獣被害を勉強しようとすると、この大学院がベストだ!と思ってここに来ることにしました。いまの研究テーマは『鳥獣被害量と被害“認識”の関係』です。つまり、ひとはどのくらいの被害量で『大変だ』と思い始めて、どのくらい量が減ったら『耐えられる』と思うのか。被害をゼロにすることは難しい。それに動物にはことばが通じないから、『なぜ農作物を食べるの?』って聞くこともできない(笑)。それだったら、人間側の生の声をきいて、両者の『妥協点』を探りたいなと」

Tさん

 

大学院生は大切な研究仲間

学生は時に教員と共に「現場」に入り、集落の人たちと共に鳥獣被害の解決を目指した実証的な調査研究を行っています。彼らの行動力と好奇心は、教員にとっても大きな刺激を与えているようです。

 

山端: 「いやぁ、正直言って院生さんは自分の『研究仲間』に近いですよ。わたし自身も『気になってたんだよね』ってところを突いて、結果を出してくれますからね。すごく嬉しい気持ちと、どこかこう、ライバルに先を越されたという気持ちもありますね(笑)。教員にもすごい影響を与えてくれています。こういう風に真剣に学んで研究したいという学生さんを受け入れられるように、複数の大学が連携してコースを作ろうという動きもそのひとつですね」

 

日常がそのまま「研究」のゆりかごに

大学院に入って初めてのゼミ発表で、修論のテーマのアイディアを発表したというTさん。その発想の根源は、暮らしの中で自分自身が経験した「困りごと」でした。

 

Tさん: 「いまは農地付き住宅に住んでいます。知らないうちに『落花生植えといたで』って言ってくれるくらい、地域の方と距離が近い(笑)。自分でも野菜を作っています。そこである時、収穫直前のナスを食べられたんです。もう、ショックで…。それで修論のテーマ発表の時に『被害が大きいといっても、何を食べられたかで全然、感じ方が違います』とプレゼンしたんですね。わたし、カボチャが大好きなんです。ナスだったら泣かないけどカボチャを食べられたら、泣く、って(笑)。あと、畑の草刈りしながらいろいろ考えることも多くて、思いついたことをすぐに部屋に戻って資料にまとめて、先生に説明したりして。この環境ぜんぶが、いまのわたしの『研究現場』になっています。」

 

 

Profile

山端 直人 教授/博士(農学)
1969年三重県生まれ。農林水産省、三重県庁を経て現職。専門は農村計画学、野生動物の被害管理など。

 

Tさん
1998年福井県生まれ。「小さいころから動物が好き」だったが、高校時代から本や新聞記事を通じて将来の仕事として鳥獣被害に興味を持った。宇都宮大学農学部卒業後、兵庫県立大学大学院に進学。

 

自然・環境科学研究所森林動物系とは?

兵庫県森林動物研究センター(以下、センター)は野生動物による被害を防ぎ、人間との共存を図るために2007年に設立された兵庫県の機関です。森林動物系は、このセンターを拠点に、調査・研究を進めています。「獣害に強い集落づくり支援」「イノシシの被害防止と狩猟資源の適正管理」などテーマも多様です。センターには自然・環境科学研究所の教員である”研究員”と共に、兵庫県の行政職員であり野生動物の専門技術者である”森林動物研究員”が配属されており、これらの人員が連携して活動することにより、ワイルドライフ・マネジメントの推進に必要なデータの収集・分析、政策提言も行っています。

GPSを装着したツキノワグマ

カメラ設置調査

森林動物研究センター 外観

 

\ この記事をシェア /

Twitter Facebook