市民と共に絶滅危惧種の保全に必要な基礎的研究を進める(教員:高橋 鉄美、院生:Tさん)
大学院環境人間学研究科は、環境人間学部の教員と、兵庫県立自然・環境科学研究所の自然環境系及び森林動物系の教員によって担われています。
今回の記事は、自然・環境科学研究所設立30周年の事業として制作されたキャンパスガイドの一部を転載したものです。自然・環境科学研究所の高橋鉄美教授と、院生のTさんのインタビュー記事です。
誰よりも地域の自然を熟知する“市民”が研究パートナー
海外をフィールドに淡水魚類の生態・進化について研究してきた高橋鉄美教授。これまでの研究拠点も滋賀県、静岡県と複数に渡ります。兵庫県立大学には2015年に着任しました。
高橋鉄美(以下、高橋) 「他の研究機関と違う、この研究所の特徴のひとつは、博物館と連動して調査・研究・教育活動をしていること。そのため、『研究者と市民の方々が一緒に研究・調査活動をする』ことがスタンダートなんです。それは、他の先生たちをみていても感じます。例えばわたしが日本の淡水魚を対象にした研究を始めたのは、ここに着任してからです。そのきっかけは『ここに絶滅危惧種が生息しているよ』という、市民の方からの情報提供だったんです。研究者ひとりの力って限界があるんですね。そこに住んでその場所の自然を日々観察している方って、ほんとうにたくさん情報を持っている。魚だって獲ってみないと、生息しているか分からないですから」
さまざまな社会経験を経て「海外で調査をしたい」と大学院進学を決意
高橋教授の元で学ぶ院生のひとりに、Tさん(34)がいます。大学卒業後は「いきものに関わる仕事がしたくて」犬の訓練士に。しかし仕事をする中で「将来にわたって時間をかけて取り組めることを見つけたい」と考えるようになりました。その後、教員免許の取得、医学研究の補助、そして青年海外協力隊員としての活動などの経験を経て、「海外で生物を調査・研究をしたい」と一念発起。2021年春に大学院に進学しました。
T さん「いまは、高校の非常勤講師の職と掛け持ちしながら通学しています。社会人が通いやすいようにカリキュラムが組まれているので、研究も進めやすいですね。研究室は少人数で、ゼミもその月々で先生が学生の都合をききながら柔軟に設定してくださっています。自分自身、『研究』に興味を持ち始めたのは、基礎医学研究の補助をしていた頃です。身近に研究者がたくさんいる中で刺激を受けました。その後にJICA青年海外協力隊としての経験も積み重なって『海外で生物の調査・研究がしたい』と思うようになり、進学先を探しました。高橋先生の調査地がアフリカや南米だったことが、ひとつの決め手になりましたね。本当は海外の調査地が希望でしたが、いまは高橋先生と一緒にニッポンバラタナゴに関する研究に取り組んでいます。研究活動というのは単なる『生涯学習』のレベルではなくて、本気でやらなくちゃいけないこと。それも含めていまは刺激的な毎日を送らせてもらっています」
Profile
高橋 鉄美 教授/博士(水産)
1971年北海道生まれ。国立遺伝学研究所博士研究員などを経て現職。専門は魚類生態学、魚類分類学。
Tさん
1987年奈良県生まれ。大学卒業後、犬の訓練士や高校の非常勤講師、青年海外協力隊などを経て2021年春より大学院に進学。
兵庫県立 人と自然の博物館とは?
兵庫県立人と自然の博物館を拠点に、5つの部門(地球科学、系統分類、生態、環境計画、生物資源)に分かれ調査・研究を進めています。また、特徴として①教員の多くが博物館の研究員を兼務している、②市民協働型の調査・研究や、調査・研究結果の社会実装などを積極的に行っている、などがあげられます。多様な「人と自然の関係性」を、長い時間かけて築き上げたひょうご五国をフィールドに、「自然環境と居住環境」「自然・自然資源の評価と保全」「人間活動の自然環境に対する影響」「地域振興と地域資源の活用」などさまざまなテーマで調査・研究を行っています。
樹木の育成状況調査
丹波竜の調査
人と自然の博物館 外観
兵庫県立 人と自然の博物館
[所]兵庫県三田市弥生が丘6丁目