梶原伸介さんに聞く、地域に人の居場所をつくる「仕事」。
コワーキングスペースを始めるまで
はじめまして。梶原伸介(かじわらのぶゆき)と申します。空間の設計をはじめ、コワーキングスペースという場所の運営やクラフトビールのお店の経営などを行っています。お世話になったまちが、これからも暮らす人たちにとって楽しく自慢できるところであり続けてほしいというのが、仕事を通した私の願いです。
私の経歴は少し変わっていて、大学卒業後の社会人デビューは製薬会社の営業マンとしてでした。通常建築を志す場合、高校や大学・専門学校などで建築を学んで設計事務所に入ることが多いのですが、私は生物系の学部卒であったため、建築に興味はあったもののそのまま求人のあった会社に就職していたのです。
しかしながら、どうしても仕事に馴染めず、興味のあった建築に携わりたいという気持ちが日に日に強くなり、ついには会社を退職し、大阪の夜間の建築専門学校へ入学。27才でセカンドキャリアをスタートさせ、大阪で設計事務所で働いた後に姫路へ帰ってきて独立しました。
2012年に姫路へ帰ってきて設計の仕事を細々とやりながら人とのつながりを求めていくうち、当時はまだマイナーだったコワーキングスペースを知ることになります。多様な職種の人と一緒に同じ場所で仕事をするスタイルに大変刺激を受け、閉鎖的になりがちな建築設計事務所とコワーキングを同じ場所で運営することにし、新たに物件を借りてコワーキングスペースmoccoを開業。この決断が、姫路でまちに関わる第一歩になっています。
コワーキングを始めてから大手前通り、そしてビール醸造。人を巻き込みながらまちに「居場所」を作るという仕事。
地元ではあっても仕事でのつながりがまったくなかった私は、コワーキングを始めてから様々な人達と出会うことが出来ました。そして、いろんな仕事もしました。建築設計はもちろん、イベントの実施、ポスティング、SNS、ラジオ出演、新聞掲載などなど。当時はお店の経営をやったことがなかった上に、誰も知らないコワーキングスペース。すべてが手探りでした。とても大変でしたが、そういった経験が今に繋がっていて、現在姫路と加古川で2店舗経営しています。
また、コワーキングスペースを運営することで地域での活動も増えました。たとえば商店街のお祭りを手伝ったり、小さな物件をリノベーションして店舗をオープンさせたり。moccoで知り合った仲間と一緒にこういった活動を地道に繰り返していくうち、行政からも注目されるようになってきました。そして、行政側が取り組む社会課題の解決に私達も一緒になって取り組む機会が増えていったのです。
最も大きなものは、姫路のメインストリートである大手前通りで3年間取り組んだ社会実験「ミチミチ」です。これは、歩いて楽しい大手前通りを目指し、行政と民間が一緒になって将来像を描きながら実験を行っていくプロジェクトとなっています。今、世界のまちなかでは車中心の社会から人中心の社会への移行が進んでいます。大手前通りが、今よりもっとゆっくり滞在したり買い物を楽しめたり出来る。そういった行政が描くビジョンを沿道の事業者の方たちと共有し、それを実現すべく準備と実践を毎年行ってきました。
まちに関わるということ
この記事を読まれている方の中には、自分の地元がやばいからどうにかしたい、そう思われている人もいらっしゃるかも知れません。全国にそういった場所はいくらでもあるし、それぞれで事情も違います。そして、まちへの関わり方もたくさんあるでしょう。
ただ、そんなに大げさな事を最初からする必要もないんじゃないかなと思っています。私も最初はお気に入りの地元のバーを見つけたことから始まりました。散歩したり、ぼーっと観察したり。そして、チェーン店ではなく地元資本のお店でお金を使うことから始めてもいいでしょう。そういった小さな行動から繋がっていくと、外から見ただけでは分からない色々なことが分かり、本当にすべきことが見えてくるのではないでしょうか。そうした小さな動きをする人たちが少しでも増えて、全国の地域課題を解決していけるようになれば、まだまだ日本は面白いんじゃないかなと思っています。この記事を読んでいただいた方にとって、今よりもう少しだけまちに目を向け、関わるきっかけになれば幸いです。ありがとうございました。