2020.11.06 更新

持続可能な社会を構築するインフラとしての学校~子ども数が減って、学校がなくなって、そして地域は?~

環境人間学部 人間形成系 尾﨑公子

私は、教育学、なかでも教育政策を専門としており、「持続可能な社会を構築するインフラとしての学校」というテーマで研究を進めています。

児童・生徒数の減少により学校統廃合が各地で進んでいます。学校は地域コミュニティの核であり、特に、中山間地域における学校存続は地域の存続とも関わる深刻な問題です。文科省は、2015年に学校統廃合に関わる手引を60年ぶりに改訂しました。手引では、統廃合のみを加速させるのではなく、小規模校を残す市町村の選択も尊重される必要があると述べるとともに、休校になった学校の再開に向けた取組みの工夫についても言及しています。けれども、小規模校をいかに存続させるかについての事例が少なく、他の模範となるモデル事例の開拓が課題になっているところです。

私は、2006年度より兵庫県の神河町をフィールドとして、学校統廃合や山村留学制度(農山漁村に小中学生が移り住み、地元小中学校に通いながら、さまざまな体験を積む活動)に関する研究を進めてきました。神河町の山村留学制度はひとつのモデル事例とも言えるものでした。

神河町は、2005年11月に旧神崎町と旧大河内町が合併して誕生した町です。合併を機に旧神崎町にあった越知谷第二小学校と旧大河内町にあった上小田小学校の2校が廃校となりました。このうち越知谷第二小学校は、第一小学校と統合され越知谷小学校として 、廃校施設は「やまびこ学園」として山村留学生を受け入れる寄宿舎として、それぞれ2005年に再スタートを切りました。

越知谷第二小学校(1886年設立)は、70年代以降の児童数減少を受けて、1991年度から山村留学制度を導入し、廃校となるまでの14年間、延べ49名を受け入れることによってなんとか学校を存続させてきました。寄宿舎導入前は、完全な里親方式で、住民たちは、受け入れマニュアルもないなか、子どもたちを受け入れてきました。

負担の大きい制度を維持してきたのは、廃校が集落存続に関わる問題だと認識されていたからです。里親経験者へのインタビューでは「学校がなくなったら大変だというその思いだけでやってきた」と述べておられました 。この言葉には、母校への哀愁に止まらない生活基盤喪失への危機感が含意されています。過疎地の小規模校は、運動会等の学校行事も集落の協力を必要とします。一方、集落も、学校行事への参加を通して集落の生活に欠かせない紐帯を保持してきた側面があります。つまり、学校は、集落の多世代(子どもから高齢者まで)、多団体(子ども会、青年団、老人会、婦人会)を結節させる働きをしてきたと考えられます(図1)。廃校になればそうした結節機能を失うことになります。だからこそ、小学校の存続にエネルギーを注いできたと考えられます。

図1 学校は扇の要

山村留学制度は、「やまびこ学園」の設置を機に、山村留学を「(財)育てる会」に業務委託し、里親方式とセンター方式の混合方式に移行しました。「育てる会」は、1976年に長野県八坂村で山村留学を始めて以来、そのノウハウを蓄積してきており、自治体・団体に向けて活動企画指導・サポート・指導員派遣をおこなっている財団です。

旧制度から新制度に移り、留学してきた子どもたちは、1か月のうち20日間をセンター(寄宿舎)、10日間を里親と暮らすことになりました。里親家庭と学校以外にセンターという生活空間、そして指導員というレファレンス・パーソンが提供されました。留学生は、異年齢の留学生、地元生、指導員、センタースタッフ、里親、教員、集落の人々、つまり立場も年齢も異なる関係性の中で暮らします。そして、四季折々の野外活動、動植物、村祭り、農作業など、自然生命環境とそこに基盤に置く生産活動・文化活動などの社会文化環境が、センターのプログラムに編成されていきました(図2)。

図2 子どもを核とする自然/人間の多層多元的な関係性

写真 僕は火起こしが得意!

 

やまびこ学園は、旧制度を手探りで維持してきた人々の思いとエネルギーを拡散させることなく、再結集させる働きをし、過疎地であっても、農山村の自然環境、社会文化環境を活かし、有機的に結びつけることによって、豊かな教育環境を生み出すことが可能であることを示していました。

また、廃校になっても子どもたちの声が聞こえるだけでなく、育てる会の20代の専門指導員を迎えることができ、集落を活気づけていました。さらに、都市と農村の交流拠点としても機能していました。

環境人間学部もやまびこ学園を教育の場として何度も訪れています。1年生を対象として実施している地域巡りツアーでは、里親経験者の方々とふれあい、留学生にはお茶を頂きました。自分たちで茶摘みから携わって作ったお茶です。また、私のゼミの共同研究のフィールドでもありました。ゼミ生は、やまびこ学園に宿泊して、留学生、里親、指導員のお話を伺って学びを深めていました。例えば、山村留学プログラムのひとつに「太鼓・民謡をとおした農村伝承文化体験と表現活動」があり、「太鼓」が、異年齢集団の団結力や自己肯定感を育み、また留学生と住民をつなぐツールとして機能していることを明らかにした研究を行っています(図3)。

図3 廃校施設:地域活性化の拠点

 

以上のように、小規模学校や廃校が地域活性化の拠点となり得ることを示す事例でした。けれども、残念ながら、越知谷小学校もやまびこ学園も2020年3月に閉校、閉園になりました。統合しても、越知谷小学校の児童数は減少の一途で、やまびこ学園を支える住民の高齢化が進んだためです。

少子高齢社会の厳しさを目の当たりにする思いですが、東日本大震災を経験し、一極集中型都市に対する危機感や経済成長一辺倒への懐疑が高まり、「田園回帰」と呼ばれる大都市から地方への新たな人の流れも起きています。また、新型コロナウイルス禍もあって地方分散型社会への転換がさらに求められるようになっています。学校は、そうした社会転換を進める上での基本的受け皿となります。各地域の将来設計とも連動させ、循環型の、持続可能な社会を構築するインフラとしていかに学校を機能させていけばよいのか。そうした課題に応えられるような研究をこれからも進めていきたいと思います。

 

関連リンク

兵庫県立大学環境人間学部尾崎研究室

 

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