2020.03.16 更新

世代を越えた人と人との繋がりがもたらすもの

環境人間学部人間形成系

教授 内田勇人

暮らしの中の健康と福祉

環境人間学部人間形成系の内田勇人です。私の専門は、「老年学」「公衆衛生学」「世代間交流学」ほかになります。研究室では元気で優秀な学部生、大学院生に囲まれながら、和気あいあいとゼミ活動やフィールド調査を行っています。中国からの研究生、大学院生もおり、真摯に研究に取り組んでいます。中国も高齢化が進んでおり、留学生の多くは高齢者福祉、介護予防、健康体力づくりについて学びたいという希望を有しています。

ところで、皆さんは「フレイル」という言葉をご存じでしょうか?おそらく、多くの方は「初めて聞いた」のではないかと思います。「フレイル」とは、英語のfrailtyを短くしたもので、ここ数年の間に広く使われはじめた言葉です。日本語では、虚弱、脆弱(ぜいじゃく)な状態を意味します。高齢者の介護予防、寝たきり予防の観点から注目されていますが、フレイルは健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下がみられる状態のことを指します。具体的には、

①体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少

②疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる

③歩行速度の低下

④握力の低下

⑤身体活動量の低下

といった5項目の基準があって、3項目以上該当するとフレイル、1または2項目だけの場合にはフレイルの前段階であるプレフレイルと判断されます。いち早くフレイルに気づき対策を講じることで、要介護化を防げることが知られています。私の研究室では、これまでに兵庫県内の姫路市、夢前町(現、姫路市)、新温泉町、西脇市、神戸市等において、高齢者の心身の健康に関する調査を進めてきましたが、ここ数年はフレイルに特化して調査を行っています。

 歩行テストの様子(1)

 歩行テストの様子(2)

 

家島でのフレイル調査

2019年度は、家島地区へゼミ生と一緒におもむき、調査を行いました。家島地区の高齢女性30名(平均年齢79.4歳)に協力いただき、フレイルを含む健康に関する簡単なアンケート調査を実施したのですが、分析の結果、高齢女性の食品摂取のバランス度は他の地区の高齢者と比較して良好(しっかりと栄養がとれている)であることがわかりました。その一方で、歩く機能や外出の頻度、ものを噛むといった口の機能は、同年齢の他の高齢者と比べて得点は低いことがうかがわれました。今後、追跡調査を実施し、これら機能の改善に向けたフィードバックができればと考えています。

いえしまコンシェルジュの中西和也さんと一緒に

 

また城乾地区では、地域にお住いのお父さん方が参加する姫路市ソフトボール大会の予選に、本学部の学生が審判員や非公式の親睦試合の選手として参加しました。大会は本キャンパスのグラウンドで行われました。大会に参加された皆さんへ大学や大学生に期待することについて聞き取り調査を行ったところ、大いに期待するといった声が多く、具体的には「地域と交流して欲しい」「人口減少の日本を支えて欲しい」「地域の祭りに参加してください」、または「私たちも大学で学びたい」といった意見、要望がよせられました。参加学生には、地域の皆さんのイメージ調査を行ったのですが、ほんの数時間の交流にもかかわらず、交流の前後で地域住民に対する「信頼」や「親しみやすさ」にかかわるイメージは高まることがわかりました。今後も、大学生による地域イベントへの参加等を企画し、交流事業の効果を分析していきたいと思います。

本キャンパス・グラウンドでの地域の皆さんとのスポーツ交流

 

世代を越えた人と人のつながりを考える

私は10年ほど前に、研究仲間と一緒に日本世代間交流学会の設立に携わりました。人間の発達理論の中心に「発達課題」があります。人間が生きていく上で「苦難」や「課題」はどうしても存在し、対峙(たいじ)せざるをえません。その時に重要なのは、うまく乗り越えられなくてもこれらに向き合い色々と思考することが、実は私たちの心身の発達にはとても大切になることが知られています。その際に、周囲の関わり、特に多くの世代の人々の存在は重要になります。課題と向き合う中で私たちは人の心を理解し、様々な立場の人に対して配慮が出来るようになることが期待されています。

私たちが暮らす社会は、緩やかに、しかし確実に日々変化しています。流行(りゅうこう)という言葉がありますが、まさに流れ行くように新しいライフスタイルや技術・技能、芸術、ファッション、歌などが生まれ、消費され、通り過ぎていきます。これらはその時代、社会を彩り、私たちの生活に活力と息吹を与えてくれます。その一方で、「流行(はや)り廃(すた)り」という言葉があるように、時々の流行だけで終わってしまうことも珍しくありません。その意味では私たちは流行を無意識のうちに評価し取捨選択しているように思われますが、反面、その国や地域の暮らしに深く根ざした時に流行は伝統文化・芸能・技能として、長くそこで暮らす人々の精神や行動、暮らし、生活に影響を与え続けます。そうした深く根ざした伝統文化は、家庭や家族、親族、地域、組織、社会の共有物として、次世代へ継承されていきます。その一方で、近年、わが国では世界的にも例をみない速さで社会の少子化、高齢化が進行しており、50歳以上の人が人口の半数近くになりつつあります。世代間の関係の希薄化とともに、これまで伝承されてきた文化を次世代に繋げないのではないかといった焦燥感もあります。

 シニアボランティアによる小学校での教育支援の様子

 

私たちの基層をなす文化の存在は、集団としてのまとまりや共通の価値観の創出、社会の横のつながり、地域住民同士の信頼関係、安心感の構築を考える上で重要な役割を果たしています。これらを伝承、継承していくことは、より良い集団や地域、社会の醸成を考える上で重要になるといえるでしょう。と同時に、伝統文化・芸能・技能の伝承、継承は、それらを伝える側と伝えられる側の双方に及ぼす影響も大きなものがあると思われます。わが国における伝統文化・芸能・技能は多岐にわたります。建築、造園、文芸、武道、華道、茶道、熟練工技能、そして地域に根づくしきたり、風習、言い伝え、祭り、季節行事、踊り、伝統食などが例として考えられます。これらが次世代に伝承、継承されていくこと自体が大変重要ですが、様々な事業・プログラムの動向に着目し、そこに存在する師弟関係、地域や生活場面における教授者と被教授者の関係、世代間の交流効果等について明らかにしていくことも、今後の研究の一つの方向性として重要になると考えています。

伝統文化・芸能・技能の世代継承に対する世代間交流学からのアプローチ

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