2020.02.16 更新

知らないけど、いちばん近い島「家島」の魅力を味わう【前編】

社会をつくる

WORDWORK

森 千春

兵庫県立大学環境人間学部とのご縁

みなさん、はじめまして。私は、兵庫県姫路市にある広告制作会社『WORDWORK』のコピーライター兼ディレクターの森 千春といいます。

私が所属する『WORDWORK』は、もともと、私のボスの個人事務所として始まりました。[言葉の仕事]という社名どおり、当初は広告の文字部分、キャッチコピーやネーミング、もちろんイメージや説明を伝える本文の制作、つまり「コピーライティング」といわれる仕事を主としていました。

しかし、広告制作の一部を携わる仕事ではなく、もっともっとクライアントさんに近い存在になって、そのクライアントさんが抱える問題解決に携わりたいと思うようになり、ゆる~く方向転換。今は「ブランディング」といわれる、クライアントさんの新しいファンづくりや、働くスタッフさん自身がもっとその会社に愛着を持てるような仕掛けをつくる仕事がメインになりました。相談の内容に基づいて、クライアントさんをはじめ、グラフィックデザイナーやwebデザイナー、フォトグラファー、イラストレーターたちなど、さまざまな分野の専門家さんとチームと組み、必要なもの(ロゴデザイン、ポスター、PR誌・フリーペーパー、webサイト、ときには動画など)を提案し作成しています。クライアントさんは姫路市を中心に関西全域に広がっていて、私も取材やリサーチのため、全国各地(北海道~九州)に足を運んでおります(沖縄も行きたい、笑)。

さて、私と兵庫県立大学環境人間学部とのつながりは、2014年からになります。喫茶店オーナーや老舗食堂の店主など、自分だけのスタイルで、姫路のまちを盛り上げようとしている人々を取材し、期間限定で街中にパネル展示し紹介する『まちの記憶プロジェクト』という取り組みの中で、井関崇博 准教授とご一緒したのがきっかけです。このプロジェクトは、井関ゼミとのコラボレーション企画でもあり、取材を行う当時のゼミ生に、取材や原稿作成に関する簡単なレクチャーも担当させていただきました。ゼミ生たちが独自に取材し、編集した動画はYouTubeにアップ。視聴者の方も、また取材した学生自身も、姫路の人々を通じて、日常に隠れた姫路の小さな魅力に目を向けるきっかけになった取り組みです。

それから6年。今回は、環境人間学部の太田尚孝准教授のゼミの学生が、姫路市の「家島」の活性化につながるイベントを企画運営すると聞き、学生たちの様子を見にお邪魔しました。

姫路にある島、「家島」。

「家島(いえしま)」とは、瀬戸内海東部の播磨灘、姫路市から沖合い約18kmのところに、大小44の島々が広がる、家島諸島の一つ。瀬戸内海国立公園に指定されており、古くから瀬戸内航海の要所として、多くの旅人が訪れてきました。人が住んでいる島は、家島、坊勢島(ぼうぜしま)、男鹿島(たんがしま)、西島(にしじま)の4島で、現在約6,000人が暮らしています。タイやハマチなど新鮮な海の幸に恵まれるほか、1000年以上の歴史を持つ菅原神社の天神祭など、独特の文真も受け継がれています。家島本島は姫路港から高速船で約30分で行ける場所で、通勤・通学のため家島から姫路市本土に来ている人も少なくありません。

家島の地域活性プロジェクトって、これまでにもあったはずでは!?

私も家島本島には、仕事で2度ほど行ったことがあります。家島は入江の角度が深くて、眺望のよい宮浦の高台から眺めると、私の生まれ育った広島県の、尾道本土と向島(むかいじま)と似た構図に。とても懐かしい気持ちになったのを覚えています。

日本の他の島と同じく、家島も人口流出が大きな課題となっています。ただ、私の印象としては、家島は、まちづくりの専門家や学生など、いわゆる「そともの」といわれる島外の人たちと地元の若い人たちが一緒になって、わりと早い時期から地域活性のために取り組んでいるというイメージがありました。そんな家島をテーマに、学生が新たに企画したプロジェクト。それは、「島に行かずに、島の魅力を体感する」というものでした。

ターゲットを絞り、ピンポイントなアプローチを。

本年度担当のゼミ生、永瀬紗織さん、阿部舞さん、西島優さん、福島瀬里さんは、家島活性化のために過去に行われたイベントについて調査するところから、このプロジェクトを進めたといいます。家島に訪問すること計4回。家島やそのイベントに興味があって訪れた人に、家島を楽しんでもらうために行われたイベントやフィールドワーク自体は盛況に終わったものの、継続的な交流につながりにくく、ニーズに偏りがあることに注目。さらに、県立大学内でアンケートを行い、兵庫県出身の学生でも「家島」の存在を知らない人が多いことを導き出しました。同じ世代における家島の認知度が低いこと、さらに「3,000円までのイベントなら参加できる」といったニーズを抽出したことから、イベントのメインターゲットを学生に設定。あえて島まで行ってもらうのではなく、学生が気軽に行ける姫路市本土のカフェを開催地とし、家島の食材たっぷりのランチを楽しんでもらうという『カフェいえしま』を企画しました。

ターゲットを設定し、それに見合ったアプローチを考える。言うのは簡単ですが、実はここまでの道のりがけっこう苦労しますし、いちばん重要です。今回の家島に限らず「町の活性化」となると、どうしても「町で何かをする!」とか「まず町に来てもらわないと!」という思いが先走りしやすいのですが、ちょっと思考を変えて、「まず、家島を知ってもらう」という最初の一歩を大事にしたゼミ生の視点は、とても柔軟で(いいとこ突くなぁ!)と思いました。私も、企画を考える際、主旨から脱線しない程度にこれまでの常識にとらわれないことと、クライアントさんも制作チームのスタッフさんも面白がってもらえる仕掛けづくりを心がけている(「アホやなぁ~」と言われるのが最高の褒め言葉です)ので、島に行かずに島の魅力を体感してもらう発想は、いい刺激になりました。

ターゲットの学生が行きやすい場所=「姫路市本土のカフェ」で、親しみやすいテーマ=「(家島の)食」を楽しみながら、家島について思う時間を共有する。2日間にわたり、計30名限定で行われた『カフェいえしま』は、開催1週間前に予約完売。ゼミ生さんたちの目標は、ひとつクリアされました。

後編はこちらから

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