2021.08.13 更新

高校生と大学生が共に学ぶ地域学習プログラムの開発(教員:太田尚孝)

社会をつくる

社会デザイン系都市計画研究室 太田尚孝

複雑な現代都市社会の課題に対峙するには?

皆さんもきっとどこかで「これからの時代は課題解決型人材が必要!」という話を耳にしていると思います。要するに、指示待ちの受け身ではなく、自ら考え、他者と協働しながら積極的に課題解決を目指す人材育成が日本社会全体で期待されています。これを、教育という観点からみると、高校でも大学でも一方通行的な知識の詰め込みではなく、知識を活かした柔軟な発想力や挑戦的行動力の養成が注目されています。仮にこのような人材育成や教育が必要だとしても、言うのはとても簡単ですが、実際にどうすれば身につくか、どのような場面で活かせるのかは全国各地で模索が続いています。

また、前提としてそもそも何が課題なのかも、私たちが暮らす現代都市社会を見渡すと、実はわかりにくくなっているのも事実です。例えば、地方都市の商店街の衰退問題をみても、個々の店舗の品ぞろえや店主の意欲、ライバル店やネット通販との競合関係、顧客のニーズの変化、街並みとしての雰囲気や交通利便性など、複合的な要因が折り重なって衰退現象が生じています。

このような場合に、私は環境人間学部が得意とする環境と人間との関わり合いの探究や、学際的で多面的なアプローチが鍵になると考えています。そこで今日は、地域に根差した活動を大切にしている環境人間学部らしい教育実践例として、都市計画研究室の3年生が県立北摂三田高校の1年生と行った高大連携活動について紹介したいと思います。

課題発見力と課題解決力を養う具体的方法は?

都市計画の分野では、まちづくり学習という形で、地域の課題や資源をまち歩きを通して発見し、グループワークにより、意見をまとめて、具体的な計画作りに発展させることが長らく行われてきました。今回の高大連携事業は、この伝統を前提に、三田市の県立高校に通う高校生目線で「地域デザイン実習:データ分析と姫路の現地見学を通して自分たちのまちの未来をデザインしよう!」という2日間のプログラムを企画・実施しました。

具体的には、①正しい知識の習得(市役所職員からの三田市の課題説明)②ビックデータ活用(自分たちが暮らすまちの客観的状況の把握)、③チームワーク(グループワークを通してチームで課題発見や課題解決)、④リアルな体験(まち歩きによるまちの理解)、⑤比較的視点(自分が暮らすまちの長短を他のまちや他者の意見との比較から分析)、⑥現実的提案(課題解決のために何ができるかを「グループ1押し提案」として根拠を示しながらプレゼン)、をプログラムの核にしました。つまり、自分たちが暮らすまちがどのような状況に置かれているのかを多面的にとらえることで良さや課題を明確化し、課題発見力と課題解決力を養おうと考えました。

■一日目

1)高校と大学の顔合わせ

2)三田市役所担当者による講義

(昼休憩)

3)ミニ講義「未来の自分たちのまちをデザインするのは誰?」

4)PC演習「Resasを使い倒して自分のまちを知る!」

5)グループワーク「私が大人になった時の自分たちのまちは〇〇?」

6)各グループによる発表

 ミニ講義

 PC演習(大学生がサポート)

 グループ発表

■二日目

1)姫路市民会館集合・事前説明

2)グループごとに姫路のまちあるき(大学生が高校生を案内)

(昼休憩)

3)グループワーク「自分たちのまちをよくする1押し提案!」
(姫路のまち歩きをうけて、自分たちのまちをよくする提案を考える)

4)各グループによる発表

5)教員、大学によるコメント

6)閉会

 姫路まちあるき(大学生が案内)

 グループ発表

 閉会(高校生からのお礼)

なお、冒頭で述べたように課題発見力や課題解決力は大学生にも当然求められています。しかし、これまでの高大連携事業はどちらかというと、高校生メインでプログラムが設計され必ずしも大学生への教育効果は重視されていない傾向がありました。この反省から、今回の高大連携事業には企画段階から大学生に積極的に関わってもらうようにしました。例えば、まち歩きを実施するためのマップ作成やグループワークの司会進行案づくりなどです。もちろん、当日もビックデータ活用時のPC演習補助、まち歩き時の説明役、グループワーク時の司会進行役、プレゼンの指導も教員ではなく大学生が主体的に行いました。

■大学生が作成した姫路まちあるきMAP

参加した高校生の声と大学生へのインタビュー

2日間の活動に対する評価として実施した高校生へのアンケート調査では、総合評価として満足度は「非常に満足」がなんと27/33人ときわめて高い値となりました!また、自分たちのまちの将来を考えるきっかけについても「非常にそう思う」が24/33人となり、普段は何気なく暮らす自分のまちの環境にも目を向けることにもつながったといえます。さらに、一連の大学生へのサポートについても、「非常に役に立った」との回答が29/33人と、大学生の丁寧な事前準備や協働的姿勢が高校生にも伝わり、相乗効果を生んだと言えます。新型コロナウイルス感染症の感染防止対策に加えて熱中症対策も必要な状況で、なにかと制約条件の多い高大連携事業の実施となりましたが、大学教員としても高校生の真摯な姿勢や大学生の創意工夫がとても嬉しくなりました。

都市計画研究室では毎年、県内の高校との類似の高大連携事業を研究室活動として取り組んでおり、地道な活動の先に高校生も大学生も共に学ぶ場づくりができあがることが期待できます。その中で、自分がどのような環境でこれまで暮らしてきたのか、今後どこでどのように暮らしていきたいのか、自分のまちはどのような特徴や課題があるのか、自分は何ができるのか、などを考えてくれると本質的な地域創生にもつながるのではないかと考えています。

さて、参加した大学生は何を考え、どのような工夫を自分たちで行ったのか、皆さんも気になりますね?大学生には活動終了後にインタビュー形式の動画を撮影しましたので、こちらをご覧ください!!

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