2021.03.27 更新

親子に寄り添って虐待を防ぐ―自分だからこそできる研究

人間を育む

今まさにもがいているあなたに

こんにちは。2018年に環境人間学部を卒業した山川勝也です。現在は徳島大学の大学院博士課程で、子育てを楽しく感じられるようにしたり、家事や育児についてのパートナー間のコミュニケーションを活発にしたりするための研究をしています。

学部卒業後は京都市の市民活動センターで働きつつ、龍谷大学の政策学研究科でも学んでいました。新卒で就職して会社員としてキャリアを積むのではなく、研究という道を選んだのは、社会に必要なことと自分のやりたいことの中から、自分にできることを一番発揮できると思ったからです。

今日は、私の研究のテーマや、多くの同級生とは違う研究という道を選んだ経緯についてお話したいと思います。これまでにどのようにもがいてきたかを知られるのは恥ずかしくもあるのですが、将来の進路に悩んでいる、これからの学生生活をどのようにすごしてしていこうか、と今まさにもがいていて、幸運にも?不運にも?この記事にたどり着いてくださった方に、何か少しでもお役に立てるお話ができたら嬉しいです。

虐待の要因ではなくプロセスを知りたい

環境人間学部での卒業研究では子ども虐待の発生プロセスについて研究しました。これまで「○○は虐待の要因である」という仮説を検証する研究はあったのですが、その結果「低所得が虐待の要因である」と言われても、じゃあ高所得家庭で虐待が起きないのかというとそうではない。むしろ、虐待をしてしまった親がなぜそこまで追い込まれてしまったのか、その過程を理解しなければ対策ができないはずだと。

今の子ども虐待の対策は、すでに起きてしまった、あるいは起きる危険が高い家族をこれ以上悪化させないように封じ込めるものが主流です。虐待がこれだけ増加して社会問題化する前ならそれでも間に合ったかもしれませんが、児童相談所で年間に10万件以上も相談対応があっては、今のやり方だけでは子どもの安全は守れない。そもそも親が追い込まれることなく、子どもが安全に暮らせるように、封じ込めではなく虐待を予防することが大切なのです。それでこれまでは、虐待を予防するために、虐待が起きる要因をできるだけ小さくするというやり方をとってきました。でも、所得みたいになかなか変えられないものもある。育児不安が虐待の要因だからと不安をなくすためにアドバイスしたら、むしろそれがお母さんを追い込んでしまった、というようなこともたくさんあります。

起きる要因を小さくするという考え方では、なかなか虐待を予防できていなかったんです。だけどもし、低所得であることがどのように親を追い込んでしまうのか、不安やストレスはどのように大きくなってしまうのか、そういうプロセスが分かれば、親が追い込まれずに済むような対策ができて、虐待が発生したり進行したりすることを止められるはず。そういうわけで、子ども虐待の発生プロセスについて研究してきました。

卒業研究ワークショップ(2017年10月)

支援制度の課題から、成功事例の分析へ

虐待の発生プロセスを研究してきたことと、自分が市民活動センターというある意味で支援を行う場所に身を置いていたことが影響して、大学院の修士課程では虐待を予防するための支援制度の課題を研究しました。虐待の予防制度で、すごい成果を出している国があるんです。残念ながら、日本ではなくてフィンランドです。

プロセスを止めたら虐待が予防できそう、でもどうやってプロセスを止めようかと探していたところ見つけたのがフィンランドの仕組でした。そして、そのフィンランドの仕組みが、実は最近できた日本の子育て世代包括支援センターのモデルにもなっていたんです。ということで、日本の仕組みとフィンランドの仕組みを比較して、日本の仕組みのどこに課題があるのかを研究してきました。

それで、より良い仕組みをつくるために、どこをなぜ改善しなければいけないのか、までは分かってきつつあります。でも、数学の点数が低いから志望校合格のためには数学の点数を上げなさい!と言われたって、それができたら苦労はないわけです。知りたいのは、じゃあどうやったら点数が上がるのか、勉強方法ですよね。なので博士課程では、そういう課題を解決できている地域や団体で、もっと言うと子育てを楽しく感じられるようにしたり、家事や育児についてのパートナー間のコミュニケーションを活発にしたりするために取り組んでいる地域や団体で、どうやって課題を解決しているのかを分析して、他の地域でも真似しやすい解決策は何なのかを研究しているところです。

最近だとコロナで家にいる時間が増えている方が多いので、パートナー間のコミュニケーションは一見すると活発になっているようにも思えますが、家にいる時間が長すぎてそれがストレスになってしまったり、会話は増えたけど仕事についての会話で、むしろ家事や育児についてのコミュニケーションが減ってしまう方もいますよね。それがDVの原因になったり、価値観がずれて口論になったりしてしまうので、そういう意味では、これからの時代には、虐待の予防のためだけではなく、家事や育児についてのコミュニケーションを活発にするための取り組みが必要になってくるかもしれません。

しんどかったけど、悔いなくやりきった学部時代

学部に入学してからの話をすると、自分は母子家庭で学費と生活費のために夕方から深夜まで働いて、帰宅するのはだいたい3か4時、寝るのは5時のような毎日でした。でも、学びたいから大学に入ったので、講義にはほとんど出席してましたし、成績もそれなりには良かったと思います。環境人間学部の特徴の一つの、学生団体にも入って活動していました。もちろん友達と遊んだり飲みにいったりとかも。姫路は美味しいご飯やさんも多いですし、西日本の各地にアクセスもしやすいので、遊びに行かないと損です!その分、時間も体力も削ってしんどかったですが。でも、やりきったおかげで充実した学部時代でした。

たまに遠出して趣味の写真撮影を楽しむことも

ただ、周りを見れば、学費や生活費を親に援助してもらえている学生が多かったのはショックでした。4回生になって分かったのですが、就活の費用も決して安くはない。一億総中流とは今は昔、日本の子どもの貧困率はOECD加盟国の中でも高く、母子家庭等の一人親家庭では最悪の水準です。その子どもの貧困の連鎖を止めるために、低所得家庭の子どもが大学に入りやすいようにしよう、そのためにも高校までの教育格差を解消しよう、そういう活動が最近は増えてきました。私も、大学に入りさえすればなんとかなる、大学に入るまではそう思っていました。

もしかしたらその弱み、強みになりませんか?

しんどい思いをしてまでも、やりたいこと、自分にできることをやりきろうとしたのには、仕送りいっぱいでアルバイトも少しだけで済む学生をうらやむ気持ちもありましたが、人生のスタートダッシュの失敗を 取り返すという意志も大きかったと思います。スタートダッシュが失敗したらもうだめだなんて、そんな現実を子どもたちに見せるのは格好が悪いし夢がないので。

このスタートダッシュの失敗は、大学入学後、「研究」というものに出会うまでは、ずっと自分の弱みだと思っていました。でも今はむしろそれが自分の強みになっていると感じています。自分がしんどい経験をしてきたからこそ、立場が弱かったり、同じようにしんどさを抱えている人の気持ちを理解することができて、その分だけリアリティのある研究ができる。私の場合は研究でしたが、SDGsやソーシャルビジネスの考え方が浸透してきた現在では、誰かのしんどさを解決することが大きな価値を生むようになってきました。しんどい経験をしてきたこと、他人と比べて自分には弱みがあること、そういうものが考え方次第では自分の強みにもなるんだということを知っておいてください。

人生をかけて成し遂げたいことのために、研究という道を選びました

と、ここまでは研究のテーマや学部時代のお話をさせていただきましたが、私は別に研究者になりたいわけではないんです。研究は、あくまでも自分が成し遂げたいことを実現するための手段の一つです。人生をかけて最終的には、しんどい子どもの暮らしの底上げをしていきたいと思っているのですが、これまでの研究でやってきたのは、まず最低限として、やるせない理由で子どもの安全が脅かされることがなく、苦しむ親子がいなくなるようにするためのステップの一つです。

学部時代から、やりたいことも、自分にできることも悔いなくやりきるようにしてきました。今後の人生でもそうあれたらステキなのでしょうが、さすがに時間や体力に無理があって。もし私が志の半ばで倒れることがあっても、研究によって得られた本質的な知見には、他の誰かが行動を起こすときの助けになったり、より良い仕組みを作っていくための基礎になったりできる力があります。そういう過去から未来に確かなものを残せるというのも、研究という営みが持っている魅力の一つだと思います。もちろん、自分が誰よりも新しいことを明らかにしているんだというワクワク感も大きな魅力です。

今後は研究で得た知見を生かして目の前の人のしんどさを解決するための実践、主には親子に寄り添って虐待を予防していくことに取り組むとともに、まだ見ぬ誰かや自分の手に負えないくらいの大勢の誰かの役にも立てるよう、研究を通して問題解決のための本質になるような知見を伝えていきたいと思っています。

後輩の皆さんへ

大学生という立場を使い倒してください!大学の講義の内容って、その道の専門家や第一人者が語ってくれる最新の知識だったりします。講義の他にも、フィールドワーク、学生団体の活動、サークル、アルバイト、趣味や遊び、こういういかにも大学生がやっていそうなことの全てが、大学卒業後には忙しくてなかなか持つことができない学びの機会です。見て、聞いて、誰かと話す。笑って泣いて(もちろん、これまではともかくこれからは悲しい涙は流さない方向で)。とにかく、もがいたらもがいた分だけ、自分の弱みも強みもはっきりしてきます。今の自分が何者で、これからどこへ向かいたいのか、それを知るために大学生という立場を使い倒しましょう!

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